はじめに
画像生成AIの登場により、誰でも簡単にプロ級のビジュアルコンテンツを作成できる時代が到来しました。広告制作、Webデザイン、商品パッケージなど、ビジネスのあらゆる場面で活用が進んでいます。
しかし、便利な反面、著作権侵害や利用規約違反といった法的リスクが潜んでいることも事実です。「無料だから」「AIが作ったから」という理由で安易に商用利用すると、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。
本記事では、画像生成AIを商用利用する際の注意点について、実際のトラブル事例を交えながら詳しく解説します。企業が安心してAIを活用するための具体的な対策も紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。

画像生成AIがビジネスにもたらす可能性と注意点

画像生成AIは、ビジネスに革新的な変化をもたらす一方で、新たな課題も生み出しています。ここでは、企業が画像生成AIに注目する理由と、その裏に潜むリスクについて解説します。

なぜ今、企業が画像生成AIに注目しているのか

2022年以降、画像生成AI技術は飛躍的な進化を遂げました。テキストを入力するだけで、まるでプロのデザイナーが制作したかのような高品質な画像が瞬時に生成されるようになったのです。
この技術革新により、多くの企業が画像生成AIの導入を検討し始めています。特に中小企業では、限られた予算でも質の高いビジュアルコンテンツを制作できることから、マーケティング戦略の見直しが進んでいます。
また、リモートワークの普及により、オンラインでのコミュニケーションが増加。視覚的な情報伝達の重要性が高まったことも、画像生成AIへの関心を後押ししています。

コスト削減だけじゃない、画像生成AIの本当の価値

画像生成AIの魅力は、単なるコスト削減にとどまりません。従来、プロのカメラマンやデザイナーに依頼していた作業が、社内で完結できるようになったことで、制作スピードが飛躍的に向上しました。
たとえば、ECサイトの商品画像制作では、季節や顧客層に応じて背景を瞬時に変更できます。A/Bテストも手軽に実施でき、より効果的なマーケティング施策の立案が可能になりました。
さらに、人間では思いつかないような斬新なアイデアを提案してくれることも、画像生成AIの大きな強みです。クリエイティブな発想の起点として活用することで、新たなビジネスチャンスを創出できる可能性があります。

知らなかったでは済まされない法的リスク

一方で、画像生成AIの利用には様々な法的リスクが存在します。最も注意すべきは著作権侵害のリスクです。AIが学習したデータに含まれる著作物の影響を受けて、既存の作品に酷似した画像を生成してしまう可能性があるのです。
また、肖像権やパブリシティ権の侵害も無視できません。実在する人物に似た画像を無断で商用利用した場合、損害賠償請求を受ける可能性があります。
さらに、各AIサービスの利用規約も重要なポイントです。無料版では商用利用が禁止されているケースが多く、知らずに使用すると契約違反として法的措置を取られる恐れがあります。

商用利用できる画像生成AIとできないAI

画像生成AIサービスは数多く存在しますが、商用利用の可否はサービスごとに大きく異なります。ここでは、主要なサービスの利用条件について詳しく見ていきましょう。

無料版と有料版で異なる商用利用の可否

多くの画像生成AIサービスでは、無料版と有料版で商用利用の条件が異なります。無料版は個人利用や研究目的に限定され、ビジネスでの使用は禁止されているケースがほとんどです。
たとえば、Midjourneyの無料版（現在は廃止）では商用利用が認められていませんでした。一方、有料プランに加入すれば、生成した画像を自由にビジネスで活用できるようになります。
ただし、有料プランでも制限がある場合があります。月額料金を支払っていても、生成枚数に上限が設けられていたり、特定の用途での使用が禁止されていたりすることがあるため、契約前の確認が不可欠です。

企業規模やサービスによって変わる利用条件

画像生成AIの利用条件は、企業規模やサービスによって大きく異なります。たとえばMidjourneyでは、年間収益が100万ドル（約1.5億円）以上の企業は、月額60ドル以上のProプランへの加入が必須です。個人なら月額10ドルで済むところ、大企業は6倍以上のコストがかかります。
サービスごとの違いも顕著です。DALL-E3は無料でも商用利用可能、Adobe Fireflyは月額680円からで最も安全性が高い一方、Bing Image Creatorは無料ですが商用利用は完全禁止です。
Microsoft Copilotは少し複雑で、個人向けプラン（月額3,200円）では商用利用の可否が不明確です。確実に商用利用するなら法人向けプラン（月額4,080円/ユーザー）が必要になります。
このように月額0円から数万円まで大きな差があるため、自社の規模と予算に合わせた選択が重要です。

画像生成AIで著作権侵害になる3つのパターン

画像生成AIを使用する際、最も注意すべきは著作権侵害のリスクです。ここでは、企業が陥りやすい3つのパターンについて解説します。

AI学習データに潜む著作権リスク

画像生成AIは、インターネット上の膨大な画像データを学習して動作しています。この学習プロセス自体は、日本の著作権法第30条の4により、原則として合法とされています。
しかし、「著作権者の利益を不当に害する場合」は例外となります。たとえば、特定のアーティストの作品を集中的に学習させ、その作風を模倣するようなケースは、著作権侵害に該当する可能性があります。
企業としては、使用するAIサービスがどのようなデータで学習されているかを把握し、リスクの低いサービスを選択することが重要です。

生成された画像が既存作品に酷似している場合

AIが生成した画像が、偶然にも既存の著作物と酷似してしまうケースがあります。この場合、「依拠性」と「類似性」の2つの要件を満たすと、著作権侵害と判断される可能性が高くなります。
依拠性とは、既存の著作物を参考にして作品を作ったかどうかを指します。AIが該当する作品を学習データとして使用していた場合、依拠性が認められる可能性があります。
類似性については、表現上の本質的な特徴が共通しているかどうかで判断されます。単なる画風やアイデアの類似では著作権侵害にはなりませんが、具体的な表現が酷似している場合は要注意です。

利用規約違反が招く思わぬトラブル

見落としがちなのが、AIサービスの利用規約違反です。規約に違反した使用は、著作権とは別の法的問題を引き起こす可能性があります。
よくある違反例として、無料プランで生成した画像を商用利用するケース、ベータ版サービスの画像を商業目的で使用するケース、規定された用途以外での使用などがあります。
また、生成した画像の権利帰属についても注意が必要です。サービスによっては、生成物の権利を開発元が保持している場合があり、無断で商用利用すると契約違反となる恐れがあります。

実際に起きた画像生成AIのトラブル事例から学ぶ

理論だけでなく、実際に起きたトラブル事例を知ることで、リスクをより具体的に理解できます。ここでは、国内外で発生した代表的な事例を紹介します。

大手企業のSNSキャンペーン

ある大手飲食チェーンが実施した「AIが考える究極の料理」というSNSキャンペーンが炎上しました。画像生成AIで作成した料理画像を投稿したところ、著作権フリーでない素材が使用された可能性が指摘されたのです。
商業目的のキャンペーンであったため、著作権侵害の疑いが強まり、批判が殺到。企業は謝罪とキャンペーンの中止を余儀なくされました。
この事例から学べるのは、AIが生成した画像であっても、その元となるデータの権利関係を確認する必要があるということです。

海外で相次ぐ著作権訴訟の現状

アメリカでは、大手画像素材サービスのGetty ImagesがStability AI社を訴えた事例が注目を集めています。数百万枚の著作権保護された画像を無断でAI学習に使用したという主張です。
また、複数のアーティストがMidjourneyやStability AIなどを相手取った集団訴訟も発生。AIによる著作権侵害の判断基準について、司法の場で議論が続いています。
これらの訴訟の結果は、今後の画像生成AI業界全体に大きな影響を与える可能性があり、日本企業も注視する必要があります。

日本企業が巻き込まれたAI画像トラブル

国内では、災害記念展示でAIを活用した「新証言」展示が問題となりました。AIが生成した体験談を実際の証言のように展示する計画でしたが、「歴史の捏造」という批判を受けて中止に追い込まれました。
また、人気ゲームの特設サイトで使用された背景画像が、AIで生成されたものではないかという疑惑が浮上。開発会社が明確な否定をしなかったため、ユーザーから「透明性に欠ける」という批判を受けました。
これらの事例は、技術的な問題だけでなく、倫理的な配慮や情報開示の重要性を示しています。

企業が画像生成AIを安全に活用する5つのチェックポイント

トラブルを避けながら画像生成AIを活用するには、適切な準備と管理が不可欠です。ここでは、企業が実践すべき5つのポイントを紹介します。

利用前に必ず確認すべき利用規約

AIサービスを利用する前に、必ず利用規約を熟読しましょう。特に注目すべきは、商用利用の可否、生成物の権利帰属、免責事項の3点です。
英語の利用規約も多いですが、ChatGPTなどの翻訳ツールを活用すれば、内容を正確に把握できます。「商用利用について教えて」と質問すれば、要点を分かりやすく説明してくれるでしょう。
また、利用規約は定期的に更新されるため、継続的な確認も重要です。

生成した画像の権利関係を明確にする

画像を生成したら、その権利関係を文書化しておくことをお勧めします。使用したAIサービス名、生成日時、使用したプロンプト、利用目的などを記録しておきましょう。
また、生成した画像が既存の著作物に似ていないか、類似画像検索ツールなどで確認することも大切です。疑わしい場合は、使用を控えるか、法務部門に相談しましょう。
クライアントワークで使用する場合は、AI生成物であることを明示し、権利関係について事前に合意を得ておくことが重要です。

社内ガイドラインを策定する

画像生成AIの利用に関する社内ガイドラインを策定することで、組織全体でリスク管理ができます。ガイドラインには、使用可能なAIサービスのリスト、利用手順、承認プロセス、禁止事項などを明記しましょう。
特に重要なのは、生成した画像の管理方法です。どの部署が、どのAIサービスで、いつ生成した画像なのかを追跡できる仕組みを構築することで、問題が発生した際の対応がスムーズになります。
定期的な研修を実施し、全社員がガイドラインを理解・遵守する体制を整えることも大切です。

著作権侵害を防ぐための実務的な対策

著作権侵害を防ぐには、技術的な対策と人的な対策の両方が必要です。技術面では、著作権リスクの低いAIサービス（Adobe Fireflyなど）を優先的に使用することが有効です。
人的な面では、生成前のプロンプト確認体制を整えましょう。特定の作品名や作家名を含むプロンプトは避け、オリジナリティの高い指示を心がけることが重要です。
また、生成後のダブルチェック体制も構築しましょう。デザイン担当者だけでなく、法務担当者や上長による確認を経てから使用することで、リスクを最小限に抑えられます。

トラブル発生時の対応マニュアル

万が一トラブルが発生した場合に備えて、対応マニュアルを準備しておきましょう。初動対応、関係部署への連絡体制、対外的な説明方法などを明文化しておくことが重要です。
著作権侵害の指摘を受けた場合は、まず該当コンテンツの使用を停止し、事実関係を確認します。必要に応じて弁護士に相談し、適切な対応を取りましょう。
また、トラブル事例を社内で共有し、再発防止策を講じることも大切です。失敗を学びの機会として活用することで、より安全な運用体制を構築できます。

まとめ：画像生成AIを有効活用しビジネス機会を拡大しよう

画像生成AIは、適切に活用すれば企業に大きな価値をもたらすツールです。コスト削減や業務効率化だけでなく、新たなクリエイティブの可能性を開く革新的な技術といえるでしょう。

一方で、著作権侵害や利用規約違反といったリスクも存在します。しかし、本記事で紹介した注意点を理解し、適切な対策を講じれば、これらのリスクは十分に管理可能です。

重要なのは、リスクを恐れて新技術から目を背けるのではなく、正しい知識を身につけて賢く活用することです。社内体制を整備し、継続的に情報をアップデートすることで、安心して画像生成AIを活用できるようになります。

技術の進化は止まりません。法整備も徐々に進んでいくでしょう。変化に柔軟に対応しながら、画像生成AIという強力なツールを味方につけ、ビジネスの新たな可能性を切り開いていきましょう。